夜。

それは人を惑わせ狂わせる闇の世界。数多の人外の者がはびこる世界。

今宵も例外なく彼らはさ迷い獲物を貪っていた。

そこに一人の青年が現れた。

そこに存在するにはあまりにも奇妙な格好だった。

いや、夜の世界では、と付け足した方がいいかもしれない。

学生服という平日の日が昇っている時間帯なら見ることの多い極平凡な格好だった。

人外の者達は彼の格好を気にせず、獲物がやってきた、としか認識しなかった。

彼らの内の一人が彼に襲い掛かろうと一歩前に出ると不思議な事に落下しているような感覚を覚えた。

身体を動かそうとしたが何故か動かない。

怪訝に思い辺りを見渡すと一体の首無し人間がいた。

血が噴水の様に溢れている。さらに、彼の仲間達も何やら騒いでいる。

そして気付いた。

その首無し人間は自分の身体だと。

気付いた瞬間青年に踏み付けられ頭を粉砕された。

人外の者達は気付いてしまった。

ここにいる青年は獲物ではなく狩人だと。

彼らは逃げ出そうとしたがあまりにも遅すぎた。

彼ら全員が一瞬で殺された。

青年は特に感情を表面に出すことなくただ一言

「足りないな…」

そう呟きその場を去った。









青年が向かった先は公園だった。

深夜だからか誰もいなかった。

彼は自動販売機でジュースを一本買い口にしようとしたとき、

ヒュッ

一本の細身の剣が彼に向かい飛んで来た。

「っ!!」

彼はそれを身体を反らす事でなんとか避けたが、

ヒュッ、ヒュヒュッ

立て続けに先程の剣と同様のものが彼を襲った。

「チッ!?」

彼はポケットから小さな鉄棒を取り出した。

彼が構えると刃が飛び出し、それを振り剣を叩き落とした。

「卑怯な真似をする…」

彼が言うと正面から青い髪でカソックを着た女性が現れた。

顔立ちは美しく姿だけを見たら教会にいる純朴なシスターに見える。

ただ、両の手の指の間には先程の剣と同様のものが存在した。

そして、彼を見据えると

「暗殺者風情に言われたくありませんね」

彼に向かってそう言った。

彼はやや驚き目を見開いた後、含み笑いをしながら

「それはご最もだ」

そう返した。

「何故あなたがここにいるのかは知りませんが、排除させていただきます」

彼女はそう言い戦闘態勢をとり、指の間に挟んであった剣を投げた。

投げられた剣は高速回転をしながら彼に向かって行った。

彼はそれらを無駄な動きなく躱し彼女に接近していく。

その動きはまるで巣にかかった獲物に向かう蜘蛛の様であった。

「ふっ、はっ!」

彼女はさらに多くの剣を彼に投げ付ける。

しかし、当たるどころか掠りもしない。

そして彼は彼女との距離が五メートルほどになると一気に間合いを詰め短刀を持った腕を振り上げ彼女を切り裂こうとする。

「やっ!」

彼女はバク転でそれを躱しまた剣を投げる。

そういうことが四、五度ほど繰り返され、相手を牽制してどちらも動かなくなってから数秒後

「…下手だね、どうも。暗殺者は標的を発見したとき気付かれずに即座に殺すものなのにな」

やや自嘲気味にそう言い短刀をポケットに仕舞った。

「何故武器を仕舞うのですか?観念でもしたんですか?」

彼女はそんなはずはないと思いながらもそう聞いた。

「解っているのにくせに聞くなよ。もうすぐ日が昇る、そしたら俺の時間は終わりだから帰るのさ」

そう、子供が晩御飯だから家に帰る、そんな風に答えた。

「帰る?どこにですか?まさか『彼』の家に帰るつもりですか?」

「それこそまさかだろ?…俺にも分からんさ。『あいつ』の『中』かもしれないし、『無』かもしれない…。まぁ、どこに帰ろうが俺は気にせんがな」

「そうですか。では最後に一つ聞いてもよろしいですか?」

「…かまわん」

「あなたはどうやって具現化したのですか?」

「さあな。気付いたら路地裏に立っていた。どうやって具現化したかなんて知らんよ」

彼女の質問にはぐらかすよう、というより投げやりに答えた。

「そうですか。なら今後出てきても派手な動きは止めたほうがよろしいですよ?怖くて綺麗なお姉さんが現れますから」

彼女は微笑みながら彼に言った。

「それは楽しみだな。では今度出てこれたら今夜より派手に動くことにしよう」

皮肉染みた笑みをしながらそう言った。

「っと、どうやら時間のようだ」

彼の身体が足元から透明になっていく。そしてその現象が胸の辺りまできたとき

「次会ったときはより楽しい殺し合いをしよう、『代行者』」

そう彼は言い

「生憎ですが、私はあなたと違って殺し合いを楽しむ気はありませんから」

それは残念、そう言って彼は朝日が昇ると共に姿を消した。

「やれやれ、もう彼には、七夜君には会いたくないですね。遠野君と同じ顔をしてても全然違いますから」そうカソックを着た彼女、シエルは言った。

「さてと、帰ってカレーの仕込みをして昼頃まで寝た後遠野君の家に遊びに行きますか」








後書き
はじめまして、MHPと申します。自分にとって人生で二つめの、TYPEーMOON系では初めてのSSです。七夜とシエルの夜の出会いです。書いてて「戦闘シーンの表現が幼稚だな」と思いました(T-T)。もっとこう戦闘シーンがかっこよく書けたらいいなーって思ってたんですが、やはりずぶの素人である自分には無理でした(戦闘シーンだけでなく心理描写等もアウトですが)。できれば皆さんに読んで頂き甘い点等をご指摘してもらいたいです。アドレスは非公開でお願いしますm(_ _)m


管理人より
     投稿関連では初めてのバトルありがとうございます。
     なかなかバトルの表現が出ていて良かったですよ。
     ただ、読みやすさの観点から、句読点毎に行を区切らせて貰いました。
     これはご了承下さい。

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